ラテン語をベースにした人工言語の提案

概要

本記事では、ラテン語を少し簡単にした人工言語をいくつか提案する。同様の人工言語ジュゼッペ・ペアノによる無活用ラテン語があるが、ここで提案するのはもう少し単純化の少ないものである。ただし本記事は細かいところを詰めていないアイデアメモであり、また、よしんば完成したとしても、実用するための言語というよりは古典ラテン語を学習する前の踏み台といった位置づけを想定している (実用するためのラテン語人工言語としては Interlingua——前述のペアノの言語のことではなく IALA によるそれ——で十分だと考えている) 。

第3変化名詞に関する改造案

第3曲用は理不尽である。このことはラテン語をある程度覚えたら忘れてしまいがちだが、思い出すためには lēx, lūx, nox をその属格形 lēgis, lūcis, noctis と見比べるとよい。主格形から語幹が定まらないのだ。

以下の改造案では、主格形さえ見れば残りの形が導けるようにしている。この改造を名詞以外のどの品詞——たとえば形容詞や、動詞の現在分詞など——まで適用するかなどは未定である。

主格を属格と同形とする

第3曲用をi幹型、すなわち -is, -is, -ium 型に統一する。主格と属格が同形になるが、そのような語はもとからあるので大きな問題はないはずだ。言語名は「第3曲用イオタ化ラテン語」としたい。英語では Latin with Iotacized Third Declension だろうか。

第3変化のないラテン語

第3曲用の語幹に、名詞の性の応じて -ius, -ia, -ium をつけて第1または第2変化とする。 言語名は「第3変化のないラテン語」、本言語自身で Latīna sīne Tertiā Dēclīnātiōniā とする。

動詞に関する改造案

第1活用化ラテン語

ラテン語 「泳ぐ」には nō と natō がある。後者は前者の完了分詞語幹に -ō をつけることによって規則活用化したものに見える。本改造案ではこのことをすべての動詞に拡大して、完了分詞語幹に -ō をつけることによってすべての動詞を第1活用にする——それも、 -ō, -āre, -āvī, ātus 型の最も規則的なパターンに。もとからそのような型の動詞はそのまま用いる。完了分詞語幹が存在しないならば、現在形語幹に -itō をつけて第1活用化する。

注意点として、もとから第1活用だが上記の「規則パターン」でないものを規則パターンとして用いて良い、とはしない。これを有効にすると、この言語を覚えたあとで古典ラテン語作文を行うときに特に悪影響があるだろうと判断した (ただでさえ混同による弊害があるであろう点には自覚的である) 。

ラテン語の vēnī, vīdī, vīcī 「来た、見た、勝った」を本言語に訳すと ventāvī, victāvī, vīsāvī である。なお古典ラテン語に videō に関連する vīsō があるが、第3活用である。

コピュラ動詞 sum については、上記の通り esitō とする、esō などと定める、ラテン語 stō を sum の意味で用いる (stō にあたる本言語の単語は statō) 、などを考えた。 (追記: ラテン語の訓練用という目的のためには、 sum は唯一の不規則動詞としてそのまま使うのが良さそう。)

本案の着想元には nō/natō のペアの他に bibō/pōtō があったのだが、後者の語幹が前者の完了分詞語幹だというのは勘違いだった (特にひねりもなく bibitus) 。